『運び屋』〜 枯れ始めてこそ滲み出る魅力

(The Mule 2018年 アメリカ)
運び屋(字幕版)



2008年の『グラン・トリノ』以来10年ぶりに、クリント・イーストウッドが監督と主演を兼任。

『ニューヨーク・タイムス』に掲載された記事「The Sinaloa Cartel's 90-Year-Old Drug Mule」を元に、『グラン・トリノ』のニック・シェンクが脚本を執筆。

共演はブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィースト、アンディ・ガルシア。

クリント・イーストウッドの娘アリソンも、主人公の娘役で出演。



あらすじ

仕事優先で家族を顧みてこなかった園芸家の老人アール・ストーンは、家族に去られ孤独に暮らしていた。

かつては順調だった仕事も最近はうまくいかず、自宅も差し押さえられそうに。

そんな時、車を運転するだけで良いという仕事を持ちかけられるが、実はその仕事とは麻薬の”運び屋”だった。



感想


最近は主に監督業に専念し、出演作は激減していたクリント・イーストウッド。

今回は「90歳の運び屋」という実年齢に近い役で、まさにハマり役。

なんだかんだで、チョイチョイ彼の昔の出演作を観直していたので、すっかり「おじいちゃん」になってしまったその風貌に軽くショックを受けました。

『グラン・トリノ』(2008)や『人生の特等席』(2012)の時はまだ「現役」感があったのに、背中も丸くなって嘗てのオーラも薄くなってしまった気が。

だが、その「見た目」が本作のひとつのポイントになっている。



本作は実話の映画化であるが、麻薬取締局の捜査官も、まさか「おじいちゃん」が運び屋だとは思わない。

「黒い車」という情報を頼りに、メキシコ系など見た目の怪しい運転手を調べていき、当の「おじいちゃん」とはまさかのニアミス。

主人公のモデルとなったレオ・シャープも、この様に捜査の網をかいくぐっていたのだろうか。


この作品は犯罪を扱った映画であるが、内容はサスペンスというよりもヒューマン・ドラマに近い。

壊してしまった家族の絆を取り戻そうとする男の物語だ。

劇中で彼の元妻が語っている様に、彼は家族との関係よりも外との関係を重要視してきた。

その為、彼はどこに行っても人気者で、その人柄の良さで麻薬の売人達とも良好な関係を築いてしまう。

彼が運び屋の仕事を続けたのも、困っている仲間を助ける為にお金が必要だったり、彼らとの関係を保つ事が理由だったのではないだろうか?

また、麻薬カルテルのメンバー達とも仲良くなり、まるで家族の様になっていったの事も理由になるかもしれない。

その証拠に、彼は自分の見張りとして付いていた組織の男に「足を洗え」と勧めている。



婚外子も合わせて6人の女性との間に8人の子供がいるとも言われ、今も精力的に映画を作り続けている仕事人間のイーストウッドにとって、家族を顧みてこなかった本作の主人公が自分自信と重なったのだろうか?

疎遠になっていたが最後に和解する娘の役を、実の娘に演じさせているところも非常に面白い。



ここ最近は実話の映画化ばかり連発してますが、また彼の撮った西部劇が観たいものです。

その時は是非、スコット・イーストウッドとの親子共演で。




こんな人にオススメ

賞レースに絡んでなくたって、本作も『グラン・トリノ』も傑作である事は間違いない。

クリント・イーストウッドが「嫌い」な人以外は、観て欲しい1本。

どうしても観たくない人は、無理にとは言いません。

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