『ディア・ハンター』〜 One Shot !

(The Deer Hunter 1978年 アメリカ PG-12)
ディア・ハンター [DVD]



第51回アカデミー賞に於いて9部門でノミネートされ、作品賞、監督賞、助演男優賞など5部問を受賞。アメリカ国立フィルム登録簿にも登録されている歴史的名作。

ロバート・デ・ニーロメリル・ストリープクリストファー・ウォーケンといった名優達の共演も見どころ。

『ゴットファーザー』シリーズ、『狼たちの午後』のジョン・カザールも肺癌と戦いながら出演を果たしており、本作が彼の遺作となった。

監督は『サンダーボルト』『天国の門』『シシリアン』などのマイケル・チミノ




あらすじ


マイケル、ニック、スティーブンの同じ製鉄所で働く若者たちは、ベトナム戦争への出征を控え、三人の壮行会を兼ねたスティーブンの結婚式に参加していた。

式が盛り上がる中、ニックは恋人のリンダに突然プロポーズをし、帰国後に結婚の約束をする。

翌日、彼らは山に鹿狩りに出掛け、マイケルは立派な一発で仕留めるのだった。

ベトナムでアメリカ軍が苦戦を強いられる中、思いもかけず三人は再会を果たすが、喜ぶまもなく敵軍の捕虜となってしまう。

囚われの身となった彼らは、賭けの対象としてロシアンルーレットを強要されることとなる。

マイケルの機転により三人は何とか脱出を果たすが、過酷な未来が待っているのだった。




感想


大昔に地上波TVで観て以来、久々の鑑賞。

改めて観直してみて、ベトナムのシーン、特に一番印象に残っていたロシアンルーレットのシーンが意外に短くて驚いた。

逆に言えば、それだけわたしの心に強烈に焼き付いていたということだろう。



元々の脚本は、ラスベガスにロシアンルーレットをやりに行く若者たちの話として書かれたらしい。

そこに「ベトナム戦争」という要素を入れたことによって、ロシアンルーレットには自ら参加するのではなく強要されたものとなる。

結果、短いパートでありながら戦争の悲惨さを訴え、且つ、戦争というものが参加した若者にどれだけの影響を与えたのか?ということを表現する大きな要素となっている。


ただ、実際にベトナム戦争を取材したジャーナリストから「ロシアンルーレットに関する記録はない」と指摘されたり、ベトナム人の描き方が・・・とか、様々な批判もあった様だが、わたし個人としては、この映画は敵国を批判しているのではなく、「戦争そのもの」を否定してるものだと思っているので、そういうところは余り気にならない。

その後も数々のベトナム戦争ものの映画は製作されるが、アメリカ人がベトナムで何をしてきたのか?アメリカが自国の黒い部分も映画で描ける様になるまでは、1986年の『プラトーン』、1989年の『カジュアリティーズ』辺りまで待たないといけない事を考えると、「そういう時代だった」と言うしかないのかもしれない。




このベトナムでの体験は主人公たち三人それぞれに違った影響を及ぼす。


新妻を残して戦地に赴いたスティーブンは、救助される際にヘリコプターから落下し足に大怪我を負い車椅子生活に。


鹿は一発で仕留めてあげなきゃ」と言い実際にその腕を持っていたロバート・デ・ニーロ演じるマイケルは、ロシアンルーレットの恐怖を体験したせいか、鹿を撃つことが出来なくなってしまう。


そして、クリストファー・ウォーケン演じるニックは婚約者の待つ故郷に帰ることなく、ベトナムでロシアンルーレットに参加し続けることになるのである。


ニックは何故ベトナムに残りロシアンルーレットを続けたのか?

賞金を陸軍病院にいるスティーブンに送っていたので、彼に対する償いの為だったのか?

それともロシアンルーレットの「魅力」に取り憑かれてしまったのか?

明確な答えが劇中で示されていないのも良い。

真実は本人にしか分からないし、もしかしたら本人も分かっていなかったかも知れない。





生涯に監督した作品数は10本足らず。

『サンダーボルト』や『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』、『シシリアン』などの秀作も撮ってはいるが、やはり『天国の門』での大失敗でユナイテッド・アーティスツを破産に追い込んでしまった印象が強い。

それでもマイケル・チミノが名匠と呼ばれるのは、この傑作を撮っているからである。

歴史に残る傑作を1本創れれば、やはり名匠なのである。





本作のテーマ曲は元々『サンダーボルト』の為に書かれたものだったが、主演のクリント・イーストウッドに却下された為に本作で使用したとのこと。

『ディア・ハンター』と言えばあのテーマ曲しか考えられないし、『サンダーボルト』であの曲が使われているところも想像がつかない。

音楽も良い映画の条件のひとつだと思うので、他の曲がテーマ曲になっていたらどうなっていただろうか?想像がつかない。

クリント・イーストウッドの判断は正しかったんだろうし、そういう巡り合わせだったのかなと思ってしまう。


ディア・ハンター (字幕版)

ディア・ハンター (字幕版)

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