公開当時「プレイリスト・ムービー」みたいな宣伝のされ方をしていたので、音楽が前面に押し出された映画なのかと思っていたが、実際には音楽は非常に自然に使われていて、個人的には映像の方に興味を惹かれました。
非常に美しい映像で、勿論そこも興味深いのだが、わたしが新しいと感じたのはそのカメラワークの方だった。
終始自由に動き回っているというか、演者に追従したりグルグル回ったり、それでいて画面に酔ったりする事はなく、誤解を恐れずにイメージしやすい言い方をすれば「スマートフォンのCM」の様な映像がずっと繰り広げられる。
長年映画を観ていると、映像の綺麗さもそうだけど、こういうカメラワークにも技術の進化を感じずにいられません。
本作は2部構成になっており、前半はアマレスの選手として期待を背負った兄タイラーが、怪我や恋人とのトラブルから取り返しのつかない過ちを犯すまでの前半と、その事をきっかけに心もバラバラになってしまった家族が、妹エミリーの恋をきっかけに再生に向かう後半の物語とで構成される。
映像の美しさ、カメラワークの素晴らしの話をしたが、もう一つ本作でとても面白かったのが、本編中に何度もアスペクト比(画面の縦横の比率)が変わるという事である。
わたしはWOWOWの放送で観たので、劇場公開時はどうだったのか、またはソフト版、配信ではどうなっているのか分かりませんが、最初は画面いっぱいに映し出されていた映像が、タイラーの怪我が発覚した時に縦に狭くなり、ある”過ち”を犯してしまった時には横が狭くなって4:3の映像になってしまう。
人生に暗い影が落とされると共に画面が狭くなっていってしまうのだ。
しかし、後半になってエミリーの恋物語のパートになると、人生に希望を取り戻して行くと共に、画面は逆に広く大きくなって行くのである。
正直に言うと、わたしが初見でアスペクト比が変わったのに気がついたのは、前半の4:3になった時だけで、それ以外は「気がついたら変わっていた」って感じで、後から巻き戻して確認したのでした。
気づかれる事なく、自然にアスペクト比を変えるってすごくない!?
映画館で観てたら気付けていたんだろうか?
自信ないです。
でも、それだけ画面に、物語に入り込めていたと言えると思う。
こういうストーリー、好きなんだと思う。
全てが丸く収まるハッピー・エンドではないけれど、「人生辛いことばかりじゃないよ」って感じの、一縷の希望を見出すような終わり方とか。
内容的なことで言うと、メッセンジャーアプリでの痴話喧嘩とか、SNSでの誹謗中傷なんてのは非常に”今”っぽいなぁと感じました。
数十年後、またコミュニケーション方法のトレンドが変わった時に、こういうシーンが懐かしく感じたりするんですかね?
想像もつきませんが・・・。
最後に音楽の話。
本作のサントラには、グラミー賞受賞の豪華アーティストたちが参加しているらしいが、最近の洋楽に詳しくない私にとっては、「あっ、あの人の曲だ!」とならない事がプラスに作用しました。
文字通り、バック・グラウンド・ミュージックとして、物語の邪魔をすることなく、登場人物の心情表現を助けるものとして存在しました。
字幕では、その歌詞の内容全てをカバーすることができないので、もっと英語が理解出来れば本作をより楽しめたのかと思います。