yakkunの趣夫生活

人生で大切なことは、全て映画が教えてくれた。

『2001年宇宙の旅』〜 肝心な所を見せないイヤラシさ

(2001: A Space Odyssey 1968年 アメリカ)
2001年宇宙の旅 (字幕版)



言わずと知れた「不朽の名作」にして「超難解映画」。


世間の声は「素晴らしい!」と大絶賛する人と「全く意味が分からない」と低評価をつける人の、ほぼ両極端。


でも、意味が分からないからと言って”駄作”と言ってしまって良いのか?


そもそも、絶賛している人達は本作の何を絶賛しているのか?本当に本作を理解しているのか?


映画の中の謎よりも、そんなことが気になってしまう僕の悪いクセ。


と言うわけで、今回は「本編を観ただけで全てを理解することは絶対に不可能」と言われている『2001年宇宙の旅』が、本編を観ただけで楽しめるのかどうか?どこまで楽しめるのか?(個人的に)という点に迫っていきたいと思います。


ちなみに、なぜ「絶対に不可能」なのかというと、説明をカットしたりシーンの順番を入れ替えたりと、キューブリックが意図的に理解し難く作っているからだそうで、詳しくは以下の町山智浩さんの『映画塾!』を見ていただきたい。

www.youtube.com

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(↑下の動画、サムネには予習編となってますが、正しくは復習編です)


わたしが初めて本作を観たのは高校生の時。


友人とレンタルして来て観たのだが、覚えているのは特撮が凄かったこと。


猿人、モノリス、宇宙ステーション、月面、宇宙船、そしてコンピューターの反乱。


夜中に観たせいもあって、兎に角眠かった。


当然内容は良く分からず、「名作」と言われるのは「映像技術」についての事か、と思ったぐらい。


年を経て、観賞した映画も数だけは増えて来た私は、幾分大人になった今なら理解出来るかと再観賞に踏み切るが、やっぱり良く分からない。


更に数年後、私は1冊の本に出会った。


この本には、『2001年宇宙の旅』以外にも、『時計じかけのオレンジ』『地獄の黙示録』など60〜70年代の名作の数々が解説されていて、映画ファンにはオススメの一冊です。


しかし、町山さんの解説を読んで一度は理解したつもりになった私も、すぐに本作を観返せば良かったのですが、随分と時間を空けてしまったことにより、結局、幸か不幸か細かい解説については記憶が朧げになってしまった状態で、今回、「午前十時の映画祭」での観賞を迎えるに至ったわけです。


幸か不幸かと書いたのは、折角入れた知識を失ったことは不幸だが、割とフラットな状態で、しかも初の劇場で本作を鑑賞出来ることがラッキーだと思えたので。


結論から言うと、本作は劇場で観るべき、と言うか体験すべき映画。


もちろん世の中には映画館で観ても、テレビ画面で観ても面白い映画はたくさんある。


しかし、映画はやっぱり映画館で観るために作られているのだと言うことを再認識させられた。


宇宙空間の漆黒の闇に包まれた無音の恐怖、宇宙船での船外作業中の宇宙飛行士の息遣い、人工知能HALの赤い”瞳”に見つめられる気味の悪さ、終盤に延々と続くドラッグムービーの様な光の乱舞、全てはボーマン船長はじめ映画の登場人物たちの体験を、我々視聴者は正に追体験しているのである。


であるならば、シナリオには書かれていたという、なぜHALがあの様な行動に出たのかという理由の説明がカットされたのも納得がいく。


本編中でボーマン船長が知ることが出来ないことを、我々も知ることは出来ないのである。


ボーマン達が体験する理由の分からない恐怖を、我々も体験するのである。


そう考えると、当時この映画を観た人たちが、例えその全てを理解していなくても、本作を絶賛したのは頷ける。


昨今の、CGをバリバリ使って画面をグングン動かす、ジェットコースターの様な映像体験とは違った、でも劇場のスクリーンでしか味わえない映像体験が本作では味わえる。


そして本作の持つ不思議な魅力は、理解出来なくても、もう一度観たいと思わせられてしまうこと。


もう一度観て理解したい、解説を聞いて理解した上でもう一度観たいと思わせる。


これって、わたしの中の「面白い映画の条件」の一つかも知れない。


もちろん、単純明快で、次に何が起こるのかも覚えてるのに、何度観ても面白い映画も沢山ある。


しかし、改めて観直した時に新しい発見が出来る映画もある。


だから、同じ映画を何回も観てしまう。


新しい映画がどんどん増えるのに、観直したい映画もどんどん増えて、観たい映画は溜まる一方なのである。



余談だが、わたしにも好きな映画、そうじゃない映画はある。


好きな映画を酷評する人がいても、「へ〜っ、この作品の魅力が分からないんだ。かわいそう。」ぐらいにしか思わないのだが、逆に自分が好きじゃない映画が絶賛されていると「何処に魅力があるの?」と気になってしまう。


正直、本作も決して好きではなかった。


だって、良く分からないから。


でも、町山さんの解説を読んだ後、今回「午前十時の映画祭」のラインナップに本作が入ったことを知り「劇場で観たらもしかして・・・。」との思いから映画館に足を運び、更に観賞後に町山さんの解説を今度はYouTubeで聞いた事で、私なりに本作の魅力に気付けた気がします。


本作に低評価を付けている人たちがこの記事に辿り着くことはないと思いますが、もし読む事があったなら、もう一度『2001年宇宙の旅』を観直してみようかなと思うきっかけになればと思います。


その時は、ぜひ劇場で。