yakkunの趣夫生活

人生で大切なことは、全て映画が教えてくれた。

『アルプススタンドのはしの方』〜 しょうがない事なんかない!

(2020年 日本)
アルプススタンドのはしの方




「アルプススタンドのはし」、そこはスポットの当たらない日陰者たちの居場所。


そんな日陰者たちの心情が、高校野球の試合の観戦を通して徐々に変化していく感じが面白い。




そもそも「アルプススタンド」とは、甲子園球場にある応援席の事で、これは甲子園特有の呼称である。


しかし、映画の舞台となっている高校野球の応援席は、どう見ても甲子園には見えず、明らかに地方球場。


なので、地方大会の話なのかと思ったのだが、会話の内容からすると試合は全国大会の1回戦で相手は甲子園常連の強豪校だと言う。


だとしたら、1回戦とはいえアルプススタンドの応援のあの大音量の中で(コロナ禍前の話として)、あんな会話はしていられるのか?とか考えてしまい、「これは、設定が気になりすぎて話が入って来ないパターンか・・・」と思ってしまいました。


ところがである、そんな心配はすぐに吹き飛んでしまいました。


1回戦だろうが決勝だろうが、地方大会だろうが全国大会だろうが、物語の中心は舞台ではなく、主要登場人物の4人と彼らを取り巻く高校生たちなのである。




もともと本作は、高校演劇部の顧問の先生が4人の部員の為に書いた戯曲で、それが全国高校演劇大会で最優秀賞を受賞したことによって全国の高校でリメイクされ、やがて映画会社プロデュースで上演され、遂には映画化と言う運びになったらしい。


なるほど、それでメイン登場人物の二人が演劇部なのか。


全国高校演劇大会のシステムの話も上手く物語に組み込まれているし、そのシステムが重要な鍵になってくる。





4人の部員の為に書かれた台本なので登場人物も4人。


演劇部部員の安田あすは、田宮ひかる、元野球部の藤野富士夫、優等生の宮下恵。


映画化に当たって登場人物も増え、と言うか舞台版では台詞の中で名前だけ登場していた人物が実際に登場している。


宮下の”ライバル”である久住智香もそのひとり。


確かに、実際に登場しなくても物語を進行する上では支障はないが、彼女の存在がラストに向けて映画をグッと盛り上げるんだよねぇ。


久住さんの取り巻きもイイ味出してました。




出演者の皆さんが、私が見たことない(一部、観た事ある映画、ドラマに出ていた様ですが、私が覚えていない)方達だったのも、結果的に良かった。


最初のうちは「低予算だから仕方ないけど、もし大手が作っていたら、元野球部の彼はあの俳優さんで、久住さんは成績優秀で人気者のキャラだから・・・」なんて考えながら見てたけど、途中からは、もうあの4人しか考えられない、久住さんを入れてあの5人しか考えられない状態になっていました。


顔を見たら過去に演じていた役が思い浮かぶ様な有名な役者さんではなく、無名(失礼?)な役者さんが演じることで、本当に居そうな、どこにでも居そうな普通の高校生の感じが出ており、それが多くの若者(と一部のおじさん)の共感を呼ぶのではないだろうか。




あと、野球観戦の話なのに野球のシーンが一切出て来ないのも良い。


冒頭で、演劇部員の女子二人が「タッチアップ」が分からずに「えっ!アウトなのに何で点が入っているの?」というシーンがある。


野球を知ってる人間からすれば、ノーアウト、もしくは1アウトで外野にフライが上がれば、タッチアップするのかしないのか、1点入るのか入らないのか、という味方になってしまう。


その映像がないことで、余計に彼女たちの戸惑いが伝わってくる感じがする。


予算の都合かもしれないが、野球のシーンは無い方が絶対に面白い。




最後に、これはネタバレだと思う人もいるかも知れないので、ちょっと書きにくいのだが、どうしても言っておきたい事がひとつ。


わたし的には、内容には触れていないのでギリギリセーフだと思うのですが、ラストシーンについての話なので、気になる方はここで読むのを止めて下さい。


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試合が終わって映画も終わりかと思いきや、時間は飛んで数年後、社会人となった4人が再びアルプススタンドに集まって来る。


個人的には、試合が終わって映画も終わった方が綺麗だったんじゃないのかなぁ、と思っていたらまさかのオチ。


「あいつ、あれから頑張ったんだなぁ」と、何だか嬉しくなっちゃいました。


最高のエンディングです。