yakkunの趣夫生活

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映画『ラストナイト・イン・ソーホー』〜 わたしが本作を好き過ぎる5つの理由(ネタバレなし)

(Last Night In Soho 2021年 イギリス R-15)
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焦らされると期待が膨らむ。


度重なる公開延期で期待度をMAXに膨らましていた私ですが、そんな上がりまくったハードルを本作は軽々と飛び越えてくれました。


以下、わたしが本作を大好きになってしまった理由を書いていきたいと思います。

キャスティングが絶妙!

まずは、今後の活躍が期待される二人の女優、トーマシン・マッケンジーとアニャ・テイラー=ジョイが素晴らしい。


主人公エロイーズを演じるトーマシンは、『ジョジョ・ラビット』(2019)で主人公の母親が自宅に匿っていたユダヤ人の少女演じて注目を浴びました。


公開順は逆になってしまいましたが、本作の後にM・ナイト・シャマラン監督の『オールド』(2021)に出演。次回作は、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019)のオリヴィア・ワイルド監督が、1996年のアトランタ・オリンピックで怪我を乗り越え金メダルを獲得した体操選手ケリー・ストラッグの物語を描く『Perfect』でケリーを演じるようだ。


そしてもう一人の主人公とも言える、エロイーズとシンクロしてしまう’60年代の女性サンディを演じるアニャは、『ウィッチ』(2015)の主人公トマシンを演じて高く評価される。


その後、M・ナイト・シャマランの『スプリット』(2016)、『ミスター・ガラス』(2019)、J・A・バヨナ監督のミステリー・ホラー『マローボーン家の掟』、X-メン・シリーズの『ニュー・ミュータント』(2020)と着実にキャリアを重ね、今後も「スーパー・マリオ」の映画化作品のピーチ姫役や、『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』のスピン・オフ作品『Furiosa 』の若きフュリオサ役など、新作が目白押し。


デザイナーを目指して田舎からロンドンに出てきたエロイーズと、歌手になって華やかなステージに立つことを夢見るサンディ。


初めは見た目の違う二人だが、夢に出てくるサンディに影響を受けたエロイーズが髪を金髪に染め、メイクも髪型もサンディに似せてくると、ぱっと見どっちがどっちか分からなくなることも。


よく見れば鼻から口にかけての辺りが似てなくもないのだが、全然違う見た目を徐々にシンクロさせていく感じが非常に上手いと感じました。


まさに、この二人以外に考えられないキャスティング。


そして、物語の鍵を握る謎の老紳士役に、名優テレンス・スタンプ。


怪しさ満点で、善人にも悪人にも見える絶妙なラインに居るので、先の読めない展開を牽引する役割を担っております。


エロイーズが間借りする家の大家コリンズを演じ、映画冒頭に”For DIANA"と追悼されているダイアナ・リグ。


登場シーンは確認できませんでしたが(女性バーテンダーを演じてるらしいのですが)、エンド・ロールの最後で”In Memory of Margaret”と哀悼の意を表されているマーガレット・ノーラン。


エロイーズが初めて’60年代を”訪れた”時に『007/サンダーボール作戦』の看板が出てきますが、ダイアナは『女王陛下の007』で、マーガレットは『007/ゴールドフィンガー』で、それぞれボンド・ガールを演じていたのは奇妙な偶然。


奇しくも、本作が二人の遺作となってしまいました。


安らかに。R.I.P.


練り込まれた脚本!

次に映画の肝であるストーリー。


主人公が、過去に起こった事件を追体験してしまう映画というのは『アイズ』(2008)、『ハウンター』(2013)など今までも色々とありましたが、夢なのか現実なのか曖昧な感じにすることで、観るものを困惑させつつも物語の世界に引き込むことに成功している。


そして、細かい設定、様々な伏線が、深みを増す。




母親を早くに亡くし祖母に育てられた主人公が’60年代に憧れるようになるのは必然で、その母の死の理由も後の物語に影響してくる。


初めての大都会ロンドンのタクシーの運転手に警戒心を抱くエロイーズ。


入学したデザイン学校の寮のルーム・メイトの意地悪に耐えきれず飛び出して一人暮らしを始めるのも、’60年代とリンクする部屋にたどり着いてしまう理由に繋がる。


都会で孤立し、自分の世界に逃げ、夢で訪れる’60年代の世界にハマって行く主人公。


楽しいはずの夢の世界で、彼女を恐怖が襲う。


やがて夢の中の世界と現代のロンドンがリンクし始め、物語は急展開を見せる。


詳細は伏せるが、いくつかある「ミス・リード」が展開に意外性を持たせ、物語を盛り上げる。




監督曰く、冒頭シーンでのエロイーズの部屋に貼られている『ティファニーで朝食を』のポスターにも意味があるらしい。


そんな監督の細部へのこだわりが、物語に説得力と深みを持たせている。


わたしの英語力では確認できなかったが、エロイーズが図書館で調べていた過去の新聞記事の中にも、ラストの展開に繋がるものがあったかも知れない。



映像が素晴らしい!

一度目の鑑賞でストーリーを楽しみ、内容を知った上で、今度は映像に集中して楽しみたい。


そう思わせる程、本作の映像は素晴らしい。


夢の中、’60年代のソーホーでサンディに”出会う”エロイーズ。


初めは、エロイーズが見つめる鏡の中にサンディが映るのだが、すぐにその立場は逆転しエロイーズの方が鏡の中へ。


今度は、エロイーズは鏡の中からサンディの行動を覗く事になるのだが、やがて二人はシンクロし始めダンスを踊りながらその姿は激しく入れ替わる。


この時点では、サンディは華やかな衣装に身を包みエロイーズは寝巻き姿なので、どちらか見分けがつきやすく、その分入れ替わりの激しさに目を奪われる。


このシーンはCGなしで撮られいるというのだが、それが信じられないぐらい巧みな撮影と編集である。


時には鏡の中から、時にはサンディに姿を変え、時には傍観者として、エロイーズがサンディの生活を見つめ続ける。


そして、前述の通り、エロイーズはサンディに影響を受けて容姿を変化させていくのだが、そうなると「入れ替わり」が分かり難くなってくる。


この辺が、エロイーズの精神がサンディの影響を受けて行く感じを、映像でうまく表現していたように思う。




また、ソーホーの街の過去と現在も、対比的な映像で撮られていた。


建物自体は現在も’60年代のものがそのまま使われている様なのだが、初めは現在の夜のソーホーの方が暗く描かれ、逆に’60年代の方が華やかな街であるように表現されている。


が、やがてその華やかな街の暗部が見えてくるのだが・・・。


エンド・ロールで映される、人のいない夜のソーホーの写真も印象的だった。



選曲がナイス!

学生時代によく聴いていた曲を久しぶり聴くと、当時の気持ちを思い出したりすることがある。


音楽は時代を写す鏡であり、タイム・マシンなのである。


知っている曲も知らない曲もあった。


”Got My Mind Set On You”、”Land Of 1000 Dances ”など、実は自分が聴いていたのはカヴァー曲でオリジナルがあったことを知った曲もあった。


でも、その全ての曲が本作の世界を構築するのに一役買っていた。


自身も両親の影響で’60年代の曲をよく聴いていたと言うエドガー・ライト監督、彼とともに共同脚本を務めたクリスティ・ウィルソン=ケアンズは、ライト監督が集めてきた曲を聴きながら脚本を書き上げ、出演者には脚本を読む時用のプレイリストが用意されたという。


それ程までに音楽と寄り添った本作だが、映画解説者の町山智浩氏によれば「歌詞がシーンとリンクしているので、歌詞の意味を知っておくと映画が何倍も楽しめる」とのこと。


全部は無理でも、次回鑑賞までにある程度は歌詞の内容を調べておきたい。




監督がエドガー・ライト!

最後の理由は、エドガー・ライトが監督していること、それだけで充分。


サイモン・ペグ、ニック・フロスト、ナイラ・パークと作りあげた、『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)、『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』(2007)、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013)のスリー・フレーバー・コルネット3部作。

カナダのコミックの映画化である『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010)。

そして、音楽とカー・アクションをシンクロさせた前作の『ベイビー・ドライバー』(2017)。

監督は降板してしまったが脚本として参加した『アントマン』(2015)も含め、1作も外さず全てハマった私にとっては、彼が監督しているというだけで「安心」の烙印を押されている様なものなのである。


しかし、その分期待が高くなるのも実際の話で、その期待値を軽く超えてきた本作は本当に凄い。


そんなライト監督の次回作は、スティーブン・キング原作で1987年に『バトルランナー』としてアーノルド・シュワルツェネッガー主演で映画化されている『The Running Man』。


果たして、今度はどんな世界を作り上げて我々を驚かせてくれるのか?


今から楽しみである。