(CODA 2021年 アメリカ PG-12)

タイトルのコーダ(CODA)とは、Children Of Deaf Adultsの略で、聴覚障害の親を持つ子供たちのこと。
本作の主人公である高校生のルビーは、両親、兄と共に暮らす4人家族だが、ルビー以外は皆耳に障害を持っている。
その為、幼い頃より家族の通訳としていつも行動を共にしており、家業の漁でも、漁船には無線に応答できる人間が必要な為、毎日漁を手伝ってから登校していた。
ある日、そんな彼女に転機が訪れる。
密かに憧れてるクラスメイトのマイルズを追うように入った合唱クラブで、顧問の教師に歌の才能を見出されたのだ。
顧問には音楽大学への進学を進められるが、家業には自分の協力が不可欠だと思い悩むルビー。
何よりルビーの家族は、彼女の「歌」の才能を実感することが出来なかったのだ。
本作は、2014年のフランス映画『エール!』のリメイクである。
わたしはオリジナル版を観ていないが、物語の設定を聞いただけで大体の展開もラストも想像できる。
実際、ほぼその通りの事が起こるんだけど、おじさんの涙腺は崩壊してしまいましたよ。
ルビーの家族に対する愛が、家族のルビーに対する愛が、おじさんの弱点を突きまくって来ました。
主人公のルビーを演じるのは、エミリア・ジョーンズ。
『ブリムストーン』(2016)でも、『ゴーストランドの惨劇』(2018)でも悲惨な目に遭う役だったので、本作で彼女の笑顔が見られて一安心。
ルビーの母ジャッキー役に、マーリー・マトリン。
アカデミー主演女優賞を獲得した『愛は静けさの中に』(1986)以来、久しぶりに彼女を見た気がしますが、相変わらずの美貌ですね。
本作で最初にキャスティングされたのがマーリー・マトリンで、彼女が他の聴覚障害者の役に健聴者がキャスティングされる事に抵抗したので、お父さん役もお兄さん役も聴覚障害の俳優さんが起用されたとのこと。
エミリアは、オーディションで今作の役を勝ち取ってからボイトレと手話を学んだらしいが、本当に素晴らしい歌声でした。
わたしに手話の良し悪しは判断できませんが、とても自然だった気はします。
何より、家族役の4人が本当の家族みたいで、とても幸せそう。
時には衝突し、悪態をつきながらも結局は仲良し。
でも、絶対的に分かり合えないもの、それは「聞こえる」ということ。
夕食前の食卓、ルビーはテーブルで勉強しているが、父はBBQコンロをガシガシ、母はお皿をガチャガチャ、兄はスマホをピコピコ。
「うるさくて集中出来ない」とルビーはイヤホンで音楽を聴こうとするが、母に怒られてしまう。
食事中に兄のスマホで出会い系サイトを見ながら盛り上がる母と兄。
「音楽はダメで出会い系は良いの?」と言うルビーに対し、母は「家族みんなで楽しめるもの」と返す。
「画像」は共有できるが「音」は共有できないのだ。
ルビーが合唱クラブに入ったと聞いた時も、母は「反抗期なのね。私が盲目だったら絵画クラブに入ったのかしら?」と言う。
単に、娘は敢えて自分が理解できないことをやっているだけだと思っているのだ。
ルビーも観客も、ルビーの才能を家族に理解してもらうのは難しいと思い知らされる。
結末は分かっている、想像できている。
でもそのハードルを上げておく事で、後々得られる感動が大きくなる。
そんなことは分かっていても、そこは敢えて製作者側の術中にハマる私・・・。
本作では、家族の物語と並行してルビーとマイルズの爽やかな恋物語も描かれる。
最初はルビーが密かに思いを寄せているだけだったが、合唱クラブでデュエットのパートナーに選ばれたことで徐々に距離を縮めてゆく。
自主練習の為、ルビーの部屋でマイルズのギター演奏で歌う二人。
最初は向かい合って歌っていたが、なんだか気まずくなってきて背中合わせで歌うことに。
見つめ合って歌うシーンにドキドキしたことはあるが、背中合わせで歌うシーンもドキドキするんですね。
こんな良いシーンの後に、あんな爆笑の出来事が待ってるなんて・・・。(笑)
その「笑える出来事」をきっかけに、マイルズと距離を取ってしまうルビー。
仲直りの為に、ある朝二人は森の中の湖を訪れるのだが、その裏で、ルビーが無断で漁の仕事をサボってしまった為に「ある事件」が起きてしまう。
岩場に囲まれた湖で、徐々にイイ感じになるマイルズとルビー。
ルビー抜きで漁に出たがためにピンチに陥る父と兄。
この二つのシーンを、何度もカットバックしながら見せられるので、最高にハッピーなはずの二人のキスシーンが、なんだかとても切なく映る。
この手の映画では、「視覚障害」と言うものを観客に伝えるために画面をボンヤリさせたり、「聴覚障害」を表現するのに無音にしたりという演出は必ずと言って良いほど出てくる。
本作では、ずっと無音シーンが出てこないので、「この映画では、そんなありふれた演出はしないのかな?」と思って観ていた。
実際、そんな小手先の演出をしなくても、前述のような母と娘のやりとり以外にも「音のない世界」に住む彼らが抱く疎外感を描く描写は随所にあった。
しかし、もうないのかと思って油断していたところで「無音演出」は訪れる。
しかも、観客が一番音を消して欲しくない、一番効果的なところで。
ありふれた演出が、最大限の効果をもたらしている。
恋に、歌に、ルビーが忙しくなるにつれて、家業でもルビーの必要性がドンドン高まって行く。
進学か?家業か?果たしてルビーの決断は!?そして家族は!?
もう、終盤は「感動」の畳み掛けです。
ハンカチ必須。
家族と言えども埋め難いギャップを、彼らはどう乗り越えるのか?
あと、アメリカ手話の”I Love You”と”I Really Love You”も知ってると感動倍増。
必須です🤟