(The Dark Knight 2008年 アメリカ)
ヒーロー映画というジャンルに留まらず、映画史にその名を残す傑作。
どうしても”命懸け”でジョーカーを演じたヒース・レジャーに焦点が当てられがちだが、それ以外にも、映画を構成する重要な要素である「脚本」「編集」「撮影」に於いても秀でている作品である。
第81回アカデミー賞では、ヒース・レジャーが受賞した助演男優賞とともに、編集賞と撮影賞にノミネートはされている。
それだけに、作品賞、監督賞にノミネートされなかったことは残念でならない。
実際、本作が作品賞にノミネートされなかった事が大きな話題となり、翌年より作品賞の候補が10作品に拡大されることとなった。
結果、第82回アカデミー賞では『アバター』や『第9地区』といったSF作品が作品賞にノミネートされることになるわけだが、『ダークナイト』の存在がなければ、ノミネートされることもなかったかもしれない。
アカデミー協会に認められなかったとしても、多くの批評家に絶賛され、世界中の観衆を魅了したことは紛れもない事実。
何がそんなに人々を魅了したのか?
本作はアメリカン・コミックの実写化映画ではあるが、正義の味方が悪者やっつけると言うような、明るくた楽しいヒーロー映画ではない。
物語は重く暗い。
挙句、観ている我々に対して「正義って何だ!?」と突き付けてくる。
本作のヴィランであるジョーカーは、完全な”悪”として描かれている。
警察のデータベースには、彼の指紋やDNAの情報もなく、顔には常にピエロの様なメイクが施されているため素顔も分からない。
口元には切り裂かれたような傷跡があり、劇中でも何度かその傷の理由を語るシーンがあるが、毎回内容が違うのでどれが本当か分からない。
多分、全部ウソだ。
ジョーカーは、素性もわからなければ、その目的も分からない。
マフィアから大金をせしめても燃やしてしまう。
目的は金なんかじゃない。
強いて言うならば、彼の目的は”バットマン”だ。
ジョーカーは、バットマンを周りから追い込んで行く。
バットマンが正体を明かさなければ、市民を一人づつ殺して行くと宣言。
初めに、バットマンの真似をして自警活動をしていた男、続いて判事に市警本部長。
次に地方検事のハービー・デントが狙われるが、バットマンに阻止されると、ジョーカーは「ハービー」と「デント」という名の別人を殺害する。
ついにブルース・ウェインは自分がバットマンであることを公表し、ゴッサム・シティの正義はハービー・デントに託す決意をするのだが・・・。
一旦は捕らえられるジョーカーだったが、難なく留置場から脱出すると、今度は囚人を移送中の船と一般市民が乗った船の両方に爆弾を仕掛け、その起爆装置をお互いの船に置き、午前0時までにどちらかを爆破すればもう一方は助けると言う。
当然、どちらの船でも相手の船を爆破しようという声が上がるが結論は出ない。
市民の中から「犯罪者なんだから爆破しても良い」と言う者も出てくる。
だが、「今自分達が生きているということは、相手も起爆装置を押していないということ」と言う台詞にハッとさせられる。
犯罪者=悪人ではないし、死んでも良い人間なんていないのである。
恐ろしい試練を仕掛けてくる”極悪人”ジョーカー、まさか、こんな大切なことを教えてもらう事になるとは。
むしろバットマンの方が、正義のためとはいえ、倫理的にどうかという行動に出るので、終盤は頭がグチャグチャになってくる。
しかし、ジョーカーが恐ろしい存在であることは間違いない。
ゴッサムの市民はもちろん、警察やマフィアまでも恐怖に陥れ、まさに無双状態。
事実上、本作の主役である。
タイトルロールであるバットマンが狂言回しの役回りで、悪役の方にスポットが当たり、物語に深みが出るのもバットマン映画の面白いところ。
かといって、バットマンがいなきゃ成立しない。
やっぱり私はバットマンが好きだ。
本作を語る上で避けて通ることは出来ない、ジョーカー役のヒース・レジャーの演技。
正直、アカデミー助演男優賞を受賞した時は「亡くなったから受賞したの?」と思ってしまったが、観て納得。
文字通り、ジョーカーが憑依していました。
全ての仕草がジョーカーのイメージそのものなのだが、わたしが一番その凄さを感じたのは、病院爆破のシーンでのジョーカーのある行動である。
ご存知方もいると思うが、病院に仕掛けられた爆薬は、本当であれば、ジョーカーの背後で連続して爆発して行く筈だったが、何かのトラブルで爆発が途中で止まってしまった。
建物を破壊するシーンの為、撮り直しが効かない一発勝負の場面で、ヒース・レジャーはアドリブで乗り切った。
爆発が止まってしまった事に気付いたジョーカーは、一瞬振り返り両手を広げた後、手に持った起爆装置を何度も叩いてみせる。
撮影用の小道具なので実際の爆破装置と繋がっているはずもないのだが、タイミング良く爆発は再開する。
最初に観た時は、まさかアドリブだとは思わなかった。
ジョーカーの一連の行動が、いかにもジョーカーらしく見えたからだ。
現場から急いで逃走するでもなく、悠々と歩いて来て、爆発が途中で止まってしまった事にちょっと苛立ちをみせる。
完全に計算されたジョーカーの仕草だと思った。
あれがアドリブでできるという事は、完全にジョーカーになりきっていたという事。
まさかこの役作りで、精神を病んでしまうとは・・・。
合掌。
色々と考えようと思えば色々と考えながら観られるし、単純に正義のバットマンと悪のジョーカーの戦いだと思って観れば、派手なアクションや映像を楽しむ事もできる。
その懐の深さが、世界中の人々に受け入れられた1番の理由なのかもしれない。
こちらの作品は、”Amazon Prime Video”、”U-NEXT”でも視聴できます。
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