『マッド・マックス 怒りのデス・ロード ブラック&クローム・エディション』然り、『ロード・オブ・ザ・リング スペシャル・エクステンデッド・エディション』然り、高評価だった映画の特別バージョンはオリジナルよりも更に評価が上がるもの。
もちろん本作も2016年公開のオリジナルを上回る高評価。
ほとんどの場合、オリジナル版のファンが観ることになるので当然と言えば当然なのですが。
しかしながら、オリジナル版の方が良かったとの声もチラホラ聞こえて来るのは何故なのだろう?
2016年公開の『この世界の片隅に』は全3巻からなる同名コミックが原作。
その中には、映画化の際にカットされたエピソードもあり、その辺を新規映像として約40分加えたのが今作『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』である。
カットされていた話が追加されたことによって、話が大変理解しやすくなっています。
だが、果たして「解りやすい映画」が「良い映画」なのでしょうか?
この先は、おもいっきり物語の内容に触れますので、ネタバレが嫌な方はご遠慮ください。m(_ _)m
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わたしがオリジナル版を観たときに一番気になったのは、水原がすずを訪ねてきたときの周作の行動。
水兵となり重巡洋艦青葉でマニラの戦地から戻った水原は、「入湯上陸」で幼馴染のすずを頼って北条家を訪れる。
すずの夫、北条周作は水原を納屋の二階に泊まらせ、「もう会えないかもしれない」とすずと二人で一晩過ごさせる。
また戦地に向かわなければいけない人間だからといって、幼馴染だからといって、自分の妻と一晩過ごさせるなんてことがあるだろうか?
周作は「自分が無理を言って嫁に来させてしまったから」とは言っていたが、そんな「優しい」旦那がいるだろうか?
いまひとつ釈然としないシーンではあった。
が、すずを「一途に思い続けてきた」周作の言葉を、そのまま受けとめていた。
で、この時点で皆さんの感想を読んでいたら、どうやら原作からカットされている部分があるとのこと。
原作を読んでみることに。
超スッキリ。
劇場版では出番の少なかった遊女のリンさんが、原作では意外と重要な役どころを担っておりました。
実は周作はリンのお客さんで、しかも結婚まで考えていたことが描かれている。
なるほど、周作のあの行動は、すずに対するある種「後ろめたさ」から来るものだったのか。
納得である。
すずが水原さんに恋心を抱いていたような描写は映画でも描かれているが、そんなすずと周作も今はお互いを一番に思い、共に生きていこうとするところも、この作品が愛おしく感じられる理由のひとつなんですよねぇ。
そして今回の『さらにいくつもの・・・』では、この辺の事がしっかりと描かれております。
あぁ、とっても解りやすい。
あれ?でもこんなシーンあったっけ?てなところも。
わたしも、原作は一度読んだきりなので、自信をもって言う事はできませんが、お花見の時に周作とリンは顔を合わせましたっけ?
原作にあったにしろなかったにしろ、ここで再開した二人が軽く挨拶をするだけで別れる事によってお互いにもう気持ちがない事を表現してるんだろうけど、このシーンはちょっと「too much」だった気がします。
あそこは「ふたりが顔を合わせてしまったらどうしよう?」と、ひとり苦悩するすずさんで終わっていた方が良かった気がしますけどね。
でも原作はどうだったかなぁ?思い出せない。
とはいえ、周作がノートの裏表紙を切り取り描いてくれた名札を大切に持っているリンのエピソード、納屋に周作が隠していた「リンドウ」の柄の茶碗を見付けたすずが事情を察してリンに渡しに行くエピソード、そしてその際にすずが出会うテルとのエピソードなどが、物語やキャラクターへの理解を深める助けとなり、この作品の愛おしさが一層増してくる。
解りやすい映画が良い映画なのか?
全てを描かずに、観る者に考えさせるのが良い映画なのか?
好みもあるだろうし、一概に「どちらが」とは言えない。
今作の場合も、解りやすくなった分テンポが悪くなったとか、「描き過ぎ」と感じた方がいたようです。
まぁ、確かに長いですけどね。
わたしは、その分ドップリと幸せな時間に浸れました。
悲しい別れを幾つも経験しつつ、残された者は生きていかなければならない。
戦争を描きながら、優しさに溢れたこの作品がわたしは大好きです。
今回の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』で、すずさんだけでなく、周作も、リンも愛おしくなりました。
簡潔にまとまっていたオリジナル版の方が好きだという方の気持ちも解ります。
でも、わたしはどちらが好きかと聞かれたら、ズルいのを承知で「両方」と答えます。