(American Animals 2018年 アメリカ)
2004年、ケンタッキー州の大学生4人が刺激を求めて大学図書館からヴィンテージ本を盗んだ事件を映画化。
監督はドキュメンタリー映画出身のバート・レイトン。
出演は、『X-メン』シリーズのクイックシルバーで知られるエヴァン・ピーターズ、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』で強烈な印象を残したバリー・コーガン、『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』のブレイク・ジェンナーなど。
あらすじ
平凡な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、退屈な毎日に刺激を求めて元アルバイト先の飲食店の倉庫から「どうせ廃棄になる」と食材を盗んだりしていたが、ある日、大学図書館の特別室に保管されている高価なヴィンテージ本を盗み出す事を思い付く。
二人は、友人のエリックとチャズにも声を掛け、4人で入念に計画を練っていくのだが・・・。
感想
冒頭、「THIS IS NOT BASED ON A TRUE STORY(これは真実に基づく物語ではない)」とテロップが出て「えっ!?実話じゃないの?」と思ったところで”NOT BASED ON"の部分が消え「THIS IS A TRUE STORY(これは真実の物語である)」となる。
これだけでも、他の実録物とはちょっと違うんじゃないかと期待感が高まる。
本編が始まると、随所に本人達のインタビューが挿入される。
再現フィルム?こんな映画観たこと無いぜ。
「再現フィルム」と言ってしまうと安っぽく聞こえるし、テレビでよく見るアレを想像してしまうと思いますが、実際には骨太なサスペンス映画の仕上がっております。
ドキュメンタリー出身の監督ってドキュメンタリー・タッチで映画を撮るイメージがありますが、本作では色々なサスペンス映画の演出を模倣して映画ファンを楽しませてくれる。
と言うのも、主人公たち4人が盗みの計画を立てる際に参考にしたのが『オーシャンズ11』『レザボア・ドッグス』『スナッチ』といったサスペンス映画だったと言う設定なのだ。
設定じゃなかった、本当の話でした。
彼らが計画を練る際には『オーシャンズ11』風のスタイリッシュな映像にエルヴィス・プレスリーの『A Little Less Conversation』まで流れる。
知らない人の為に書いておくと、『A Little Less Conversation』とは映画『オーシャンズ11』にテーマ曲で、最近ではローラさんが出ているウィスキー「Jim Beam」のCMで流れている「come on, come on, come on」のフレーズが耳に残るあの曲です。
他にも『レザボア・ドッグス』を真似てMr.イエロー、Mr.ピンクとコードネームを付けたり、素早いカット割りや画面分割と言った『スナッチ』バリのガイ・リッチー風の映像があったりと、映画ファンなら思わずニヤリとしてしまうこと請け合い。
でも本作は、そんな小手先ばかりの演出ではない。
主人公達がいよいよ計画を実行に移す。
計画とは、予約制の特別室に閲覧の予約を入れ、一人しかいない司書を拘束して本を奪うというもの。
老人に変装し図書館に足を踏み入れるが、素人丸出しの4人は極度の緊張状態。
自然に振る舞おうと4人のうちの1人が鉛筆削りを動かすが、普段なら気にならないようなこの音が図書館内に鳴り響く。
彼らの緊張感がこちらにも伝わってくる。
結局この時は、予定外の出来事で計画は一旦中止になるのだが、その後図書館の外に出た時の開放感が目に見える様な清々しい映像。
空気の色まで違って見える。
映画中盤に訪れるこのシーンだけが他とトーンが違っていて、ものすごく印象に残る。
トーンが違うと言えば、一度だけドキュメンタリー・タッチになる場面がある。
ウォーレンとスペンサーが、盗品を買い取ってくれるバイヤーの情報を得るためにニューヨークへ行くシーンだ。
この時の二人は非常に楽しそうで、青春を謳歌する普通の大学生にしか見えない。
刑期を終えて出所した本人達とその家族、そして犯罪に巻き込まれた被害者までがインタビューに答えながら進められる物語は、非常に説得力がある。
有名な映画を参考に完璧とは言えない計画を立て、いざ実行に移したら失敗続きと、コメディにした方が良さそうな題材を一級のサスペンスに仕立てた監督の手腕は称賛に値すると思う。
○○っぽい映像を狙って、実際に○○っぽくするのだって意外に難しいのではないだろうか。
内容も面白いが、構成や映像でも楽しませてくれる映画である。
映画の面白さはストーリーだけじゃないし、見た目の派手さだけでもない事を再認識させられた。
有名な監督が撮ったわけでもないし大スターも出ていない、もちろん予算だって掛かってないのにメチャメチャ面白い。
色々な映画を観ていてたまにこういう作品に出会うと、なんだかちょっと嬉しくなります。
でもやっぱり、ドタバタ・コメディ・バージョンも観てみたい気も。