(Mission: Impossible 1996年 アメリカ)
正直申し上げまして、私この作品がそんなに好きではありませんでした。
オリジナルであるTVシリーズ『スパイ大作戦』の大ファンという訳ではないのですが、再放送とかで何度か観ていたので、『スパイ大作戦』はチームでミッションに挑むところが肝!だと思っておりました。
ところが、本作では物語の序盤にチームのメンバーが次々と殺され、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントは一人ぼっちになってしまうのだ。
こんなの『スパイ大作戦』じゃない!!
と言うのが、本作を好きになれなかった理由なのですが、かと言って嫌いという訳でもない。
そんな私の中で中途半端な存在だった本作を、最近になってなんとなく久しぶりに観直してみて、実は私が非常に好きな種類の映画である事が判明いたしました。
これは『殺しのドレス』(1980)で『サイコ』を、『ボディ・ダブル』(1984)で『めまい』『裏窓』を模倣したブライアン・デ・パルマ監督が、またしてもヒッチコック作品を模倣したスパイ・サスペンスなのではないか!?
私は一体何を観ていたのか?
私の眼は曇っていたのか?
はたまた鑑賞前に批判的なコメントを耳にして、マイナスな先入観を持って本作に臨んでしまったのか?
やっぱり人の意見に左右されてはいけない!
映画を観るときは、出来るだけフラットな気持ちで臨むべきだ!
いつも自分で言っている事なのに、自分がその落とし穴に嵌ってしまった。
改めて言おう、これは良質なサスペンス映画であると!
ひとりの男からスパイの名前を聞き出そうとする人物と、その様子をモニター越しに見守る二人。
見事に名前を聞き出した男が変装用のマスクを自分の顔から剥ぎ取ると、そこには我らがトム・クルーズ=イーサン・ハントの姿が!
彼らが見事なチームプレーで任務を遂行したところで、導火線が燃えてゆく映像と共に流れるお馴染みのテーマ曲。
やっぱりこの曲を聴くと気分がアガります。
移動中の飛行機の中、テープの音声で指令を受け取るチームリーダーのフェルプス。
TV『スパイ大作戦』でもお馴染みの名前。
今回の任務は、ある人物が東側に潜入しているスパイのリストを盗み出そうとしているので、その盗み出す現場の証拠写真を撮り、更にはそのリストを売り渡す相手も特定すること。
テープから最後に聞こえて来るのは「なお、このテープは5秒後に自動的に消滅する」の声。懐かしい。
それぞれの役割をこなしながら任務を進めていくチームのメンバー。
今回もイーサン・ハントは変装をしての参加。
セリフで説明しなくても、彼が変装の名人ある事が分かる見事な構成。
リストのデータを盗み出させたところまでは良かったが、これから犯人を追跡しようという段階になって、チームのメンバーが次々に殺されてしまう。
しかも、たった一人生き残ったハントに裏切り者の嫌疑がかかってしまう。
実は今回の作戦は、組織が裏切り者を炙り出すために仕組んだ作戦でもあり、盗まれたリストも偽物だったのだ。
ここから物語は、ハントが「裏切り者」として追われる身でありながら、事件の真相、そして真の裏切り者を探る展開に。
この「追われながら追う」というパターンは、『逃走迷路』、『三十九夜』、そして名作『北北西に進路を取れ』などでも観られる、ヒッチコックが得意とする展開。
そしてハントは、真の裏切り者を見つけ出す為、本物のリストを盗み出すという大胆な作戦に打って出る。
『ミッション:インポッシブル』=「不可能と思われる作戦」に挑むため、ハントは新しいチームを編成する。
本作が「チームプレーじゃない」と思っていたが、そうではなかった。
私のイメージが間違っていたことがここでも分かった。
それだけ、トム・クルーズの活躍だけが印象に残っていたということか。
新たに集められたメンバーは、死んだと思われていたが実は生きていたフェルプスの妻クレア、元CIAの工作員クリーガー、そして忘れちゃいけないのが天才ハッカーのルーサー。
ルーサーは、主人公イーサン・ハント以外では、唯一『ミッション:インポッシブル』シリーズ全作品に登場する重要人物。
彼の存在も、トム・クルーズの影に隠れて殆ど忘れかけていました。面目無い。
新たなチームでリストを盗み出す事に成功したハントが、真の裏切り者をおびき出すために選んだ取引場所は、ロンドンとパリを結ぶ超特急TGV。
列車というモチーフも、『見知らぬ乗客』、『バルカン超特急』などヒッチコック作品で度々使われています。
そして、クライマックスは、走る超特急の上でヘリコプターと戦う超絶アクション。
予告編でも使われていた、ヘリの爆風で吹き飛ばされたハントがTGVにしがみ付くあのシーンが非常にマンガっぽくて、それも本作があまり好きになれない理由の一つだったのだが、最近のCGバリバリの無茶アクションに見慣れた今となっては意外と普通に受け入れられる自分がいるから不思議。
無事に自らに掛けられた嫌疑を晴らしたハントが、飛行機での移動中に新たな任務の指令を受け取ると思われるシーンで映画は終わる。
映画冒頭のフェルプスのように。
物語が続くことを匂わせつつ、ハントが新たにリーダーになった事も知らしめる最高のエンディング。
当時は、こんなに長く続く人気シリーズになるとは思わなかったけどね。
『スパイ大作戦』と『ミッション:インポッシブル』は別物なのである。
私は何を意固地になって、本作を「認めない」とか言っていたのだろう?
本作は、トム・クルーズが設立した制作会社の1作目の作品であり、デ・パルマ監督もトム自ら選んだらしい。
ということは、この映画はトム本人がやりたかったことなのである。
本人が作りたい映画を作って面白いものが出来上がった。
素晴らしいことではないか!
その映画を評価するのに、他の要素を入れてはならない。
「こんなのあの映画の続編じゃない」とか、「あの素晴らしい作品をリメイクなんかして欲しくなかった」とか、個人的な感情で作品自体を正当に評価しない(ように見受けられる)私の一番嫌いな人種に私自身がなってしまっていました。
反省します。
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