『キング・オブ・コメディ』〜 幻想は現実よりも現実的なもの

(The King of Comedy 1982年 アメリカ)
キング・オブ・コメディ 特別編集版 (字幕版)



’73年の『ミーン・ストリート』以来、『タクシー・ドライバー』『レイジング・ブル』など、数々の名作を生み出したマーティン・スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロ主演の名コンビで送るコメディ・ドラマ。
『ジョーカー』を観る前に観ておいた方が良さそうだし、せっかくアマゾン・プライム特典で鑑賞できる(2019/10/7現在)ようなので、今のうちに。

あらすじ

TV番組のMCを務める人気者ジェリー・ラングフォードの出待ちをするファン達の中に、コメディアン志望の青年ルパート・パプキンの姿もあった。
ルパートは無理やりジェリーの車に乗り込むと、自分もジェリーの様なコメディアンになりたいと訴える。
内心うんざりしたジェリーの「オフィスに電話をくれ」という社交辞令を真に受けたルパートは、ジェリーと親しくランチを取る自分、ジェリーと番組で共演する自分を夢想し始める。


感想

ジャンルとしてはコメディに分類されていますが、ロバート・デ・ニーロが演じるルパートのキャラクターが見ていて非常に痛々しく、ブラック・ジョークだと言われても、ちょっと笑う気分にはなりませんでした。

「自分の才能を信じ、夢に向かって一直線」と言えばカッコ良く聞こえるが、彼はやり方を間違え過ぎてしまいます。


物語の中で、何度もルパートが夢想するシーンが挿入される。
最初のうちは、観ている側も現実と妄想の区別がつくのだが、リアルに再現される夢想シーンに、その境目が徐々に分からなくなっていく。

だが、混乱しているのは実はわたしの方で、当のルパートが一番現実を理解していたのかもしれない。

そう感じさせるほど、デ・ニーロの演技が素晴らしい。
狂気とも、一本気とも、単なる思い込みとも取れる、常にその微妙な線上を常にいる。


ラスト・シーンについても現実か妄想かの論争が絶えない。
その事について見解を問われたスコセッシ監督は、回答を避け「幻想は現実よりも現実的なものだ」と話したそうだ。
エンディングをどう捉えるかは、その人が映画をどう観たかという事らしい。


「ドン底で終わるより、一夜の王になりたい」と言ったルパートにとっては、この映画のラストが夢であろうが現実であろうが、ハッピー・エンドに変わりはないという事なのかもしれない。

彼は、自分の手で夢を実現したのである。


こんな人にオススメ

これは観ておいた方が良い名作。

個人的に80年代後半からのデ・ニーロが完全に脂の乗り切った「名優」だとするならば、70年代から80年代前半までのオスカーを獲得しまくっていたころが、デ・ニーロに一番勢いがあった時期なのではないかと思います。

そんなデ・ニーロの名演技を見るだけでも、一見の価値あり。