yakkunの趣夫生活

人生で大切なことは、全て映画が教えてくれた。

『ビギナーズ』〜 テーマ曲の力!

(Absolute Biginners 1986年 イギリス)
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ビートルズもローリングストーンズもまだ誕生していない1958年、ロンドンのソーホーを舞台に、写真家を夢見る青年コリンと、デザイナーを目指す恋人スゼットの物語。





映画を構成する要素は「映像」と「音楽」、そして「物語」である。


この三つが揃った時に名作が誕生するのだと思う。


もちろん「物語」が一番重要なのだという事に異論はないのだが、過去の「名作」と呼ばれる映画には、必ずと言って良いほど「名曲」と呼ばれるテーマ曲が付いており、その曲を聞けば「名シーン」と呼ばれる映画の場面が脳裏に浮かび上がる。


当たり前だが、「音」も「画」も映画の一部なのである。





以前何かの記事でも書いてると思うが、ひとつ良いシーン、好きなシーンがあるとその映画のイメージがグンっと上がる。


同じ事が音楽にも言えて、既存の曲が印象的に使われていたり、オリジナルのテーマ曲が良かったりしても、その映画のイメージが良くなったりする。


本作が、わたしにとって、まさにその両方ともが当てはまる映画なのである。





正直に言ってしまえば、ストーリーは今一つである。


つまらない訳ではないのだが、詰めが甘いというか、面白くなりそうなところで色々詰め込み過ぎてまとまりがなくなってしまった感じである。


主人公二人の青春ラブ・ストーリーで徹底した方が面白くなったと思うのだが、そこに1958年に実際にノッティングヒルで起こった人種暴動を絡めたことによって、話がどっち付かずになってしまった印象である。


監督のジュリアン・テンプルとしては、当時の時代背景を内容に盛り込んで説得力を増す狙いだったのかもしれないが、逆効果だった感は否めない。


しかし、数々のミュージック・ビデオを監督しているジュリアン・テンプルの「らしさ」は随所で発揮されている。





デヴィッド・ボウイが歌う”Absolute Beginners”が流れるオープニングが終わり、カメラマンを目指す主人公の青年はカメラ片手に夜の街に繰り出す。


彼が撮影するのは、ロンドン・ソーホーにたむろする若者たち。


濡れた路面に映る色とりどりのネオンが美しく、そこで歌い踊る若者たちはエネルギーに溢れている。


路地裏を通り抜けながら、主人公が街のあちこちで撮影して廻る様子を長回しで見せる。


このシーンで、物語の世界に引き込まれる。






デザイナー志望の主人公の恋人(パッツィ・ケンジット)が、チャンスを掴むために街を出たいと告げる時に歌う”Having It All”。


主人公が下宿を営む実家を訪れた際に、静かな生活を望む父親が”Quiet Life ”を歌うのは、二階建ての家を縦に切った舞台セットの様で面白い。


広告王のデヴィッド・ボウイが主人公を勧誘する際に”That's Motivation ”を歌う巨大タイプライターのセットも印象に残る。


シャーデーが映画に出演して歌ってるっていうのも珍しいのではないだろうか?





100分超のミュージック・ビデオという感想もある。


確かに、一本のミュージカル映画というよりも、それぞれの曲のMVの寄せ集めの様で、全体的にまとまりがない感じがしないでもない。


しかし、ハッピーエンドを迎えた映画のラストをデヴィッド・ボウイの歌うテーマ曲”Absolute Biginners”で締め括ればオールOK、最後の最後で映画の印象は一段とアップする。





そういう私も、一回めに本作を観た時にはストーリーの細部を覚えていなかった。


それでも時々思い出す印象的な場面の数々、耳に残っているデヴィッド・ボウイのあのテーマ曲。


気になって仕方がないのでもう再鑑賞したら、あら、意外(?)に面白い。


やっぱり、欲張ってストーリーを詰め込み過ぎた感は拭えないが、それでももっと評価されて良い作品だと思う。


以来、時々観たくなっては観てしまう映画の一本に。





他にも、お話は普通なのに、テーマ曲とビジュアルのインパクトで大好きな作品があったなあと思ったら『ラビリンス 魔王の迷宮』でした。


これまたデヴィット・ボウイっていう・・・。


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