yakkunの趣夫生活

人生で大切なことは、全て映画が教えてくれた。

『ハウス・オブ・グッチ』〜 リドリー・スコットの魔法にかけられて

(House of Gucci 2021年 アメリカ PG-12)
f:id:kashi-yan:20220119130540j:plain





色々な意味で衝撃的な作品だった。


まず、ブランド物に全く興味のない私でも知っているあの”GUCCI”の歴史に、あんな事件があったのかということ。


歴史的事実の映画なので、各メディアとも当然のように「あの暗殺事件の映画化!」と発表していたので、鑑賞前から何が起こるかは分かっていた。


特に「衝撃のラスト」でもないのに、それでもにわかには信じがたい、驚かされる内容ではあった。


まさに、事実は小説より奇なり!


あの”GUCCI”一族のお家騒動、それを操っていたのが2代目社長パオロの従兄弟マウリツィオの奥さんだったとは!


ちなみにそのパオロを、ジャレット・レトが彼とは信じられない様な容姿で演じているのだが、劇中では彼の父アルドにも、叔父にあたるマウリツィオの父ロドルフォからも完全に「無能」扱いされている。


この辺りの描き方が、現在のグッチ一族から批判を受ける要因なのかもしれない。


観てる方からすれば、「映画なのだから事実と異なった創作が加えられているところで面白ければ良い」と言うことになるのだが、実名を出されている以上、当事者からすればそうも言っていられないのだろう。


ジャレット・レトが私の役を演じてくれるなら、どんなクズに描かれても私は文句はないのだが、そんなことは有り得ないし、映画になるようなドラマティックな人生は送っていない。・・・今のところ。(笑)







ジャレット・レト以外にも、アダム・ドライバー、ジェレミー・アイアンズ、アル・パチーノと新旧の名優たちが顔を揃えているのだが、そんなアカデミー賞受賞、ノミネート経験者たちを相手に、夫の暗殺を企む妻役で全く引けを取らない演技を見せているのがレディー・ガガである。


『マチェーテ・キルズ』(2013)、『シン・シティ 復讐の女神』(2014)ではゲスト的な扱いだった彼女が、初めての本格出演となった『アリー/ スター誕生』(2018)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたその実力が、本物だった事を証明した。


レディー・ガガは、その見た目からして野心満々で、まさにハマり役だ!


と思って観に行ったのだが、映画が始まると全くそんなことはなく、序盤ではむしろキュートにさえ見えてくる。


とあるパーティーで初めてマウリツィオと出会い、その苗字がグッチだと知ると急に目の色が変わるガガ様演じるパトリツィア。


財産目当てにロックオンか!?


・・・と思いきや、その強引にも見える押せ押せ攻撃も、ただの恋する乙女にも映る。


そして、私の大好きなジョージ・マイケルの”Faith”をバックに結婚式を挙げれば、幸せ絶頂の二人と共に私のハッピーもピークに。


ここからは、どんどん不穏な空気が流れ出す!


・・・様なこともなく、なんだったら本当にグッチの経営を心配して助言している様にも感じる。


どこからサスペンスが盛り上がるのだ?


というかトーンが静か過ぎないか!?






リドリー・スコットと言えば、これまでにも『アメリカン・ギャングスター』(2007)、『ゲティ家の身代金』(2017)といった実録犯罪物を映画化している。


どちらもスリリングな展開で、先の読めない面白さがあった。


ところが本作にはそれがない。


敢えて過度な演出をせずに、淡々と描いてる様に感じた。


そして、そのことが逆にアル・パチーノやジェレミー・アイアンズたちの演技を超えた存在感を際立たせていたように思える。


派手な展開も、派手な演技も、派手な演出もない。


もう誰が悪いとか、誰に落ち度があるとか、誰かに感情移入して観るのではなく、事実の衝撃を受け止める為の映画だった気がする。


パトリツィアは本当に財産目当てなんかじゃなかったんじゃないか?


グッチ家の崩壊も時流のせいで、誰も悪くないんじゃないか?


そんな、リドリー・スコットの魔法にかけられた感じだった。






リドリー・スコットは、その画作りに於いても魔法を掛け、観る者をあの当時のイタリアへと連れて行ってくれる。


ファッションはもちろんの事、個人的には登場してくる車にも拘りを感じた。


フィアットのスパイダーやポルシェ924など当時の名車がバンバン出てくるのだが、私が一番目を惹かれた一台は、マウリツィオとパトリツィアが叔父アルドの故郷を訪ねたときに乗っていた水色の車。


マセラッティ・ギブリに似ているのだが、ちょっと違う。


家に帰ってから調べたら、なんとギブリの4シーター・バージョンでインディという車らしい。


いやいやマニアックすぎるでしょ。


そんな車種知らなかったよ。


あんな一瞬のシーンのためにそこまで拘るかって感じでした。


カウンタックは分かるんですよ、成り上がりの象徴みたいなもんですから。


でも、マウリツィオがカウンタックを買って来た時は、「お前も変わったなぁ。昔は、「グッチは継がない」とか言って、ベスパに乗ってたのになぁ」と思ってしまいました。






あと、映像でいうと、ガガ様の赤い衣装が印象に残りました。


マウリツィオと初めて会ったパーティーの時、アルドの店に行った時、スキー場でマウリツィオの女友達に「釘を刺し」に行く時に着ていたスキー・ウェア。


彼女が勝負に出る時は、いつも真っ赤な衣装を着ていた。


やはり赤は「勝負の色」なのだろうか?





アル・パチーノ演じるアルドの誕生パーティーのシーンも良かった。


まんま『ゴッド・ファーザー』だった。


アル・パチーノの存在感がそうさせるのか?


リドリー・スコットが狙ってやった事なのか?


色々な意味で、リドリー・スコットっぽくもあり、リドリー・スコットっぽくもない、不思議な感じの映画だった。


2時間40分の上映時間は、決して短いとは言えない。


しかし、あっという間に物語に引き込まれ、そこまでの長さを感じさせない。


終始、リドリー・スコットに魔法を掛けられてしまったような、そんな映画だった。