(Cry Macho 2021年 アメリカ)
わたしが大好きなタイプの映画。
特にこれといった事件が起こらない。
男同士の友情にも似た師弟愛。
しかもロードムービー。
アメリカで公開された際は、「何もないシーンが続き、ひたすら何もない」と酷評した批評家もいたようだが、その「何もない」が私の大好物だったりする。
「何もない」ように見えて、クリント・イーストウッドが演じる老人と少年の関係性は物語が進むにつれ変化していく。
特に大きなきっかけがある訳でもないのに、二人の心情が徐々に変わっていくところが、わたしにとっては「たまらない」のだ。
主人公のマイクは、かつてはロデオ・スターとして名を馳せたが、怪我をきっかけにすっかり落ちぶれてしまっていた。
そんな彼の所に元の雇い主がやってきて、メキシコで別れた妻と暮らしている息子を連れてきてほしいと依頼される。
主人公がカウボーイである事など、イーストウッドの過去の作品を思わせる要素が多く見られることから、「クリント・イーストウッドの集大成」みたいに言われる本作。
わたしは「ちょっと忘れ物を取りに(撮りに)帰っただけ」ぐらいな感じを受けました。
元々、本作の出演が最初にイーストウッドに持ちかけられたのは30年以上前、当時は「主人公を演じるには、私は若過ぎる」と言い、代わりに監督を引き受けたらしい。
その後、一度ロイ・シャイダー主演で撮影が始まったというが、ロイ・シャイダーの方がイーストウッドより2歳も若いというのはどういう事?
結局その作品は完成せず、シュワちゃん主演案など本作の企画は挙がっては消えを繰り返し、紆余曲折を経てイーストウッドの元へ戻って来たという訳である。
ぐるぐる回ってイーストウッドの元へ戻って来るなんて、運命としか言いようがないよね。
『グラン・トリノ』、『運び屋』のニック・シャンクが脚本に参加しているからなのか、主人公はイーストウッドに当て書きしたとしか思えないキャラクターだよ。
30年前に「若過ぎるから」と断っているが、60歳のイーストウッド版も私は観たかった。
なんだったら、70歳のイーストウッド、80歳のイーストウッドの『クライ・マッチョ』も観てみたい。
それはそれで違った味わいの『クライ・マッチョ』になっていたはず。
わたしが本作を好きな理由がもう一つ。
それは、舞台が80年代であるということ。
80年代って設定が、余計に時間がゆっくり流れてるように感じさせる。
依頼人への連絡も公衆電話。
携帯電話に連絡が来て急かされることもない。
メキシコってところも「のんびり」感があるのかも?
80年代のメキシコって「自由」のイメージがある。
あの頃の犯罪映画って、みんな自由を求めてメキシコ国境を目指してた気がする。
実際どうだったのかは知りませんが。
本作のイーストウッドと少年の関係性に『グラン・トリノ』を重ねる人が多くいるようだが、私は『パーフェクト・ワールド』(1993)を思い出してしまったよ。
主演のケビン・コスナーが演じた脱獄犯と、彼が逃亡の途中で誘拐する少年の関係が徐々に疑似父子の様になって行く感じが、同じくロード・ムービーということもあって、本作と似ている様に感じました。
そういえば、『パーフェクト・ワールド』って、イーストウッドが監督と出演を兼ねていながら、主演を他の俳優が務めている稀有な作品。
イーストウッドは、本当はケビン・コスナーの役を演じたかったんじゃないかな?なんて思ってしまう。
そういう意味でも、本作はイーストウッドの「忘れ物」だったんじゃないのかな?
しかも、『パーフェクト・ワールド』が製作された時期が、1991年にロイ・シャイダー版『クライ・マッチョ』の制作が頓挫したすぐ後ってことも、何か関係あるのかなって思ってしまう。
90歳を過ぎて、なお現役。
監督としても、俳優としても。
「撮るのが早い」で有名なイーストウッド監督。
まだまだ新作を撮って、我々を楽しませて欲しい。